indexページへ 第10回全国ボランティアフェスティバルかながわ
シンポジウム:主旨説明



主旨説明

シンポジウム・コーディネーター:佐々木夏実

障害者とパソコンの可能性

 ここ数年の間に、日本の各職場・家庭にパソコンやインターネットの利用が日常的になってきた。パソコンやインターネットを使うことによって、便利になったことはいろいろある。そのメリットで、特に重要な点は、障害を持つ人たちのコミュニケーションの広がりや社会参加がこれまでに比べて「革命的」に飛躍した点があげられる。
 たとえば、脳性麻痺の障害を持つ人たちがリアルタイムでコミュニケーションを持つということは非常に困難を要することだが、ネットワークを介して、その人のペースでチャット(文字と文字による双方向の会話)などができるようになると、1対1ならば、リアルタイムでのコミュニケーションも十分に可能である。また、面と向かっての会話は普段だと不可能に近い視覚障害者と聴覚障害者のコミュニケーションも可能となる。
 これまで普通文字が読み書きできないということで、就職などで差別的な扱いを受けてきた歴史のある視覚障害者の場合、現在においては、デジタル化された文章であれば、パソコンを介して、音声や点字に情報を変換することで、新聞記事などリアルタイムに情報獲得ができるようになった。また、パソコンのワープロ機能を使って漢字を使った普通の文章をきれいに書けるようになった。 さらに、電子メールは、これまで人を介して読み書きしていた私信のプライバシーを守る条件も生み出した。
 重度の障害者(たとえばALSなど)の場合、ほとんど寝たきりの障害者でも、入力の様々な補助具を利用することで、パソコンで絵を書く等のことが可能になる。しかも、作品はインターネットを通じて、社会へ向けて発表されている。中には、入院中の病院での仕事をこなしている人もいる。
 車椅子の障害者にとってもパソコンは重要な武器だ。街を移動するに必要な情報は、双方向のメディアであるがゆえに、自分の知りたい情報を手に入れる可能性の選択肢が増えた。その他、パソコンを介して、障害を持つ人が様々な多彩な活動を行っている。それは障害者にとっては、「革命的」状況であるといえる。この「革命的」状況をどんな障害を持つ人も享受できる社会体制として、情報アクセスは、一つの「人権」といえる。

パソコンサポートボランティア活動の幕開け

 パソコンは障害者の日常生活を大きく変化させ、様々な可能性をもたらした。そして、障害者からパソコンを使って、これまでできないと思っていたことを含めて、いろいろなことをやってみたいという切実な要求が出された。しかし、パソコンは、家庭のテレビや冷蔵庫とは違って、スイッチを入れるだけで使えるものではまだない。WINDOWS95の登場以降、かなり扱いやすくなったとはいえ、越えるべきハードルはいくつもある。しかも、障害によっては、通常のキーボードやディスプレイ等が使えず、補助具を導入したりする必要も出てくる。 そうした願いにこたえていく活動の一つとして、パソコン通信の時代に、ネットワークを通じてサポートしていく活動が始まった。それがパソコンボランティアである。
 パソコンの操作や補助具導入に関する障害者からの疑問や質問などの様々なメッセージは、パソコン通信の時代から書き込まれていた。中にはメッセージのやりとりで解決する話題もあるが、多くは、問題(トラブル)を投げかけた障害者の自宅や職場まで足を運んで、直接サポートする必要のあることも多かった。たまたまネットワークで出会った人がその障害者の自宅や職場に近ければ、サポートもすんなりいくが、多くは、気軽にサポートに出かける距離にないことが多かった。そこで、様々なネットワークを結んで、障害者のパソコン利用をサポートする全国的なネットワークの組織が必要になった。

パソコンサポートボランティアのネットワークと地域パソボラの誕生

 日本障害者協議会(略称:JD)は、そんな時、障害者のコンピュータ利用を視野においた「ネットワーク小委員会(現在はネットワークプロジェクト)」を結成した。そして、様々な調査・研究やパソコン通信を行っている各地のネットワーク団体との交流を持ち、障害者のパソコンサポートを行うパソボラの活動がスタートすることになる。 パソコン通信はインターネットの時代になり、電子メールやWEB(ホームページ)を通じて飛躍的に発展する。
 その後各地にパソボラ団体が多数生まれ、ここ数年のうちに様々なネットワークがつくられていった。パソボラ団体といっても、その一つひとつは多様な形態で活動している。サポートを求める障害者の自宅や施設を訪ねて、直接障害者個人のサポートをする訪問型パソボラ。障害者が集まりやすい場所を会場に、障害者のパソコン利用の相談を受けるイベント型パソボラ。パソコンの講習会を開催して、それを中心とした活動を行う講習会型パソボラなど・・・。地域の実態やそこに参加するパソボラの意識や可能な活動形態のもとに特色ある運営がされている。

IT革命の時代のパソコンサポートボランティア

 21世紀はIT革命の時代である。パソコンやインターネットは、日本でも社会で生活していくための一つの道具になりつつある。今年は政府主導のIT講習会が全国各地で開催されている。このIT講習会に対し、障害者の願いを実現することに関係した動きは全国的に見れば、十分であるとはいえない現状がある。
 このIT講習会で、自治体によっては、障害者枠を設定するなど、障害者のIT利用に積極的なところもある。しかし、ある自治体の場合、講習会の担当者が「障害者にITなど使えない」と思い込み、パソボラ団体が実際に担当者のところの前でデモンストレーションを行い、障害者にとってITが今日の世の中で社会参加に必要な道具であることをやっと理解させたという事例もある。
 また、障害者の対象のIT講習会を実施しているところでも、障害者にITを講習するにあたってのノウハウをまったく持たないところから、結果として、これまで障害者のIT利用と普及に活動してきたパソボラ団体に依拠せざるを得ない情況もある。 一方、障害者の日常生活の改善や社会参加の方向に結びつけられないかという動きも各自治体の障害福祉の担当者や社会福祉協議会の活動でも意識されてきている。国もパソボラの役割を評価しつつ、パソボラ支援の施策も検討されはじめている。というか、パソボラの活動があってこそ、障害者のパソコン・インターネット利用が実現されているといっても過言ではないかもしれない。
 しかし、障害者に対し、どうパソコンを導入していけばよいのか。障害者にどうパソコンを理解させていけば良いのか。具体的に操作面の指導、機器の購入、補助機器やソフトウェアの選定はどうするかなど試行錯誤状態であるといってもよい。障害者を対象としたIT講習会を実現させている自治体はそれほど多くないが、そうしたIT講習会の講師は誰がやるのか、機器の準備はどうするか。講習会を終えた後のサポート体制など、解決しなければならない課題は多い。
 そうした課題を解決する手がかりと方針をもち、具体的な障害者のサポートを実現していく人材やネットワークがあるのはパソボラ団体である。パソボラ団体はそのノウハウをこれまでの実践を財産に蓄積している。そうしたパソボラ団体と行政や他のボランティア団体との結びつきを有意義なものにするには、どうすべきか。具体的な課題は何であるか。そうした21世紀のパソボラの活動を展望しようというのがこのシンポジウムの目的である。

コーディネーター紹介 佐々木 夏実

 横浜市港南区在住、年齢:43才 家族:妻1人、子ども2人


 盲学校に勤務して15年。点字の資料を作成するためにパソコンを利用したことからパソコンとの付き合いが始まる。友人に買わされたモデムを利用してみようとパソコン通信の世界に入る。NIFTYの農と食のフォーラムのSUBSYSを経験し(現在も)、パソコン通信ネットワークの運営に各種関るようになる。障害者問題のBBSであった全国障害者問題研究会の「みんなのねがいネット」の世話人を歴任。神奈川県の第三セクターのBBSであった「K−NET」では障害者といっしょにネットワーカーが集まる祭典を企画し、2年にわたりその運営に関った。
 職場にネットワークが配備される中、その整備とアクセシビリティーなWEBの制作を行い、同時に視覚障害を持つ中学生・高校生にパソコンの指導をしてきた。日本障害者協議会でネットワークが話題になる中、障害者のパソコン利用とその全国的なネットワークづくりに関り、その展開の中で、横浜でパソコンボランティアの活動をすすめ、Dream Navigator Yokohamaを結成し、その代表となる。
 中学時代に友人と栗を木から落とそうとした時に栗のいがが眼球に刺さり、外傷性白内障となり、右目の視力は0.02。長女を脳症で亡くしたが、その闘病期間、全国各地のネットワーカーに励まされパソコンを介したネットワークが人間的なつながりを持つことを実感した。人と人のネットワークの重要性を大切にを原点としている。
 パソコンは障害者のこれからの生活の可能性を考え、実践していく大きな武器になると考えている。各地でパソコンを利用し、様々な形で社会参加している友人たちの姿がそれを提示している。今回のシンポジウムでは、全国各地の人が集うことでこれからの新しい展開について広がりがでてくればと思っている。
 個人WEB http://www.tena-jp.com  電子メールnatsumi@tena-jp.com 

所属団体の紹介

● Dream Navigator Yokohama

 Dream Navigator Yokohamaは、横浜を中心に活動しているパソコンサポートボランティアの団体である。活動の拠点は、新横浜のラポールとごぼうハウスPC。月に最低1回開催される定例会を中心に、各種イベントを中心としたパソボラ活動を行っている。
 横浜は非常に広範囲で、集まっているメンバーも各地に点在している。障害者のパソコン利用の可能性を広げるためのサポート活動は、困っている人のところにいってサポートすることもあるが、集まったメンバーで広範囲な横浜をカバーするには力不足と判断した。
 集まったメンバーで何ができるかを考えた時、活動の拠点である横浜ラポールに集まってできることをいうことで、2ヶ月の一度のパソコン相談会とパソコン体験コーナーの実施、障害者のパソコン利用をすすめるイベントの企画と実施などをおこなっている。また、横浜市と提携し、横浜市IT講習会(障害者対象)のコーディネートと講師・サポーターの派遣をおこなっている。


DNYバーナ^ DNY事務局 アスタPC内 担当:鈴木 Tel&Fax:050-3543-4296(平日9時〜17時)
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